被疑者の不起訴を求める意見書

被疑者の不起訴を求める意見書

2011年8月22日

東京地方検察庁 公安部検事
 木下 雅博 殿

被疑者 原宿署417番

上記の者に対する公務執行妨害被疑事件について、下記の通り意見を述べる。

弁護人   萩 尾  健 太
同    高 橋  右 京

意見の趣旨

被疑者について「嫌疑なし」ないし「罪とならず」として不起訴とすることを求める。

申告の理由

1 被疑者は無実であり嫌疑はない

(1)被疑者の警察に対する抗議活動の正当性

2011年8月6日午後、銀座、新橋等において、原子力発電所の即時停止、原子力発電から自然エネルギーへの転換等を訴えるデモ行進(以下「本件デモ」という。)が行われ、被疑者も途中からこれに参加した。同年3月11日に発生した東日本大震災の後、福島第1原子力発電所で発生した事故以来、今後日本が原子力発電を維持・推進するのか、撤退するのかは、国民にとって極めて重要な政治課題であり、かかる状況の下、本件デモが表現行為として極めて重要な意味を持つことは、貴職に対する同年8月16日付意見書においても述べたとおりである。

にもかかわらず、警察は、本件デモ中、参加者を隙あらば逮捕しようという姿勢で参加者を厳しく監視し、実際に、手などがわずかに警察官の身体に触れたなどの事実をもって、自主的に本件デモに参加した者2名を公務執行妨害で逮捕した。警察のかかる行為は、デモ参加者に対する見せしめとしか考えられず、言論弾圧という他ない。

被疑者は、かかる警察の暴挙に抗議するため、被逮捕者2名が収監された築地署を訪れ、決して同署敷地内に立ち入ることなく、同署敷地外から前記逮捕を抗議し、即時釈放を要求したものであり、被疑者のかかる行為が全く正当なものである。このことは、上記の被逮捕者2名が、後に勾留請求すらされることなく釈放されたことからも明らかである。

(2)被疑者には行為も故意もない

被疑者の正当な要求行為に対し同署警察官らは、「建侵(建造物侵入のこと)だ」と言って被疑者らの前に立ちふさがり、さらに、何度も手で被疑者らの身体を強く押した。

被疑者は、警察官らに対し、どこからが立ち入ってはいけない場所なのかを尋ねるために、人差し指を挙げたところ、同署警備課長警視景山肇が「建侵だ」と言って被疑者に掴みかかり、自分の腹部を、被疑者の指にわざとあてようとするかのように前につきだした。そのため、被疑者の人差し指が一瞬、景山警視の腹部に触れた。

その瞬間景山警視は何やら叫び、これに反応して、景山警視と他の警察官数名が被疑者をその場で組み伏せ、そのまま同署内に引きずっていき、被疑者を逮捕したのである。

このように、本件においては、被疑者が景山警視の腹部を、人差し指で「強く突く」などという事実は存在せず、真実は、景山警視がまず、建造物侵入として被疑者に掴みかかり、その際の意図的な作為により、被疑者の人差し指が景山警視の腹部に軽く触れただけである。

よって、被疑者による、公務の執行を妨害するような有形力の行使は一切無いし、暴行の故意もないのであるから、被疑者に公務執行妨害罪が成立しないのは明らかである。

(3)建造物侵入からの切り替えによる犯罪の捏造

そもそも、その後被疑事実とされなかったことからも明らかなとおり、犯罪が成立しない建造物侵入として景山警視が被疑者に掴みかかり、その際に被疑者の指が景山警視の腹に触れたことをもって公務執行妨害に切り替えるなど、犯罪の捏造も甚だしい行為と言える。

(4)被疑者の指突き出しでは公務執行妨害罪は成立しない

同罪の構成要件たる暴行は、公務員の職務の執行を妨害するに足る程度のものでなければならない(最判昭和33年9月30日、刑集12・13・3151)。

その点では、被疑者が行った行為は、景山警視の腹部に人差し指が当たったという程度のものであって、有形力の行使としては極めて軽微であり、到底、景山警視の職務の執行を妨害するに足る程度の暴行とはいえない。よって、公務執行妨害罪を構成しないものとも言える。

2 結語

以上のとおり、被疑者には犯罪の嫌疑は皆無である。被疑者は、起訴はもちろんのこと、仮に起訴猶予とされたとしても、捜査当局からは実質的に「犯罪者」扱いを受けることとなり、被疑者の名誉は著しく傷つけられる。

検察官は公益の代表者として、被疑者の受けた「犯罪者」というレッテルを雪ぎ、その名誉を回復するために、「嫌疑なし」(被疑者の黙秘のためその主観面を把握できないと検察官が判断しても「嫌疑不十分」)ないし「罪とならず」と明記した不起訴処分とし、被疑者を起訴ないし起訴猶予の不利益から直ちに解放すべきである。

以上